2021年11月11日信仰満ちる眦:閑話(+マイ武)いつもより早めにセットした携帯電話のアラームが三度ほど鳴ったところで布団から手を出し、アラームを切る。放置して鳴らしっ放しにしていると、隣で寝ている妹たちが起き出してきかねない。 妹たちが起きてきたら朝食の支度をしたり、身支度を整えてやったりと手がかかる。普段の休日なら構わ...
2021年11月11日それはあどけない愛のことば(+マイ武)吐き出した吐息が白く濁り、流れるようにして空気に溶けて消えてゆく。 気温がぐんと下がり、冬らしい季節になってきた。この日はとくに冷え込み、昼頃から雪が降るかもしれないと予報が出ていた。 赤みを帯び、かじかむ指先を擦り合わせ、はあ、と息を吹きかけながらわずかに首を竦めている龍...
2021年11月11日朝も、昼も、夜も(+マイ武)頭上に浮かんでいたはずの弓なりの月は、生い茂る木々の枝葉に隠れて見えなくなってしまっていた。 恐る恐る足を踏み出すたびに腐葉土を踏みしめる筆舌に尽くしがたい音が響き、自身の足が枯れ葉や枯れ枝を踏む音にさえいちいちびくついてしまう。...
2021年11月11日ひたむきな呼吸の温度(+マイ武)背後から圧し掛かってくる重みを全身で受け止めながら、握った菜箸で鍋の中の野菜を転がす。 窓の外からは表の通路を駆け抜ける子供たちの声が聞こえてくるが耳に障るほどのものではなく、窓から差し込む柔らかな陽射しも相俟って麗らかな昼下がりといった感じだ。...
2021年11月11日まなうらに、ただひとつ、ただひとり(+マイ武)力任せに押し開いたコーヒーショップのドアを出て、昼下がりの街を歩く。 神経がじりじりとささくれ立つように無性に苛々して、そんな自分にまた腹が立った。 この日は元々、龍宮寺とふたりで出かける約束をしていた。 最近、休みの日は佐野や花垣と出かけることが多く、ふたりきりで出かける...
2021年11月11日信仰満ちる眦(+マイ武)寝返りを打ったのは意識的なものではなく、うとうとしだした意識で、そろそろ帰る支度をしなければと無意識にベッドから出ようとしたためだった。 けれど背中を向けられたことが気に入らなかったのか、背後から伸びてきた腕にとらえられ、そのままぐいと胸元に引き寄せられる。...
2021年11月11日ふたりが呼吸をするところ(+マイ武)腹と背中にぬくい温度を感じながらひらいた雑誌のページを捲る。 気になる服があるたびにページをめくる手を止めるが、そのたびにさっさとページをめくれと腹に回った手が急かしてくる。 室内にはコンポから静かな音量で流れる曲だけが響いていて、かすかなその音量が耳に心地良かった。...
2021年11月11日ほどけないないしょの裏側(+マイ武)放課からいくらか時間が経ち、人がいなくなった教室。隣の校舎の向こう側のグラウンドで部活に励む生徒たちの声がかすかに聞こえてくる。 その声を聞きながら刺繍枠に張った布に針を刺し、糸を通してカラフルな柄を描いていく。 妹たちが学校へ持っていくための手提げ袋の柄をリクエストされた...
2021年10月27日疾うにすくわれぬ病店先に座り込んだ乾が、誰かと話をしている姿が店内から見えていた。 乾は表情の起伏が余りなく、口数も多いほうではないから近寄り難い印象を抱かれがちだが、一度気を許した相手にはわりあいに素直で取っつきやすい。 荒っぽい一面は変わっていないものの冗談が通じないタイプではないし、身...