2021年10月10日紺褪めて、発火遠くを走り抜ける電車の音がかすかに聞こえてくる。 外は既に夜の色にいろどられ、そのなかで明るい照明に照らされる店は四角くちいさな別世界のようだった。 ガラスの引き戸を引けば、から、と摩擦の音が響く。違う世界の店内にはゆるやかなチルホップが流れていて、店の奥で既に帰り支度を整...
2021年9月25日たったひとつの神様より、きみのために祈りたかった数字の並ぶ画面を眺め、どの数字を、どのように管理してゆくか思考を巡らせる。 この数字はそっちの帳簿へ、その数字はあっち帳簿へ、あの数字は裏に回してなかったことに。 そうやって、細かい数字まで九井が管理しているわけではないけれど、大まかな金の流れはほとんどすべて把握している。...
2021年9月23日砂糖とスパイスをままごとにたとえて店の外でメンテナンスを終えたバイクを持ち主に引き渡し、見送ったあと、ゆっくりと体を伸ばす。 座り込んで作業をしていたため、軋む体が伸びる感覚が気持ち良く、ふう、と無意識に息が漏れる。 店内で作業をしている龍宮寺に、メンテナンスを終えて客を送り出したことを伝え、その場に広げた...
2021年9月21日とおい果てのまぼろし毎日毎日、砂を噛んでいる。 人間とは不思議なもので、腹は減らないのに食わないと死んでしまう。 べつに、それならそれで、と思うけれど、敢えて死ぬ理由もないし、死ぬつもりもない。 だから毎日毎日、砂を噛んでいる。 美味しくもない、味もしない、ただ栄養があるだけの、まるで砂のよう...